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生徒さんの喜びの声

フースラーメソードの魔法を、目の当たりにしたような体験
(松尾正幸)

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自分は十年前に一度、奥村多恵子先生の教室を訪問している。多くのボイストレーナーの方に会い、音楽教室を見学し尽くした末の、文字通りワラにも縋るような心境だった。

理由は、自身の特異な音楽ジャンルのせいだ。当時、既存の音楽に違和感を感じ、J-popに「和」の要素を取り入れることを思いついた。

和と洋の融合した楽曲がいくつか出来上がり、最後に民謡の歌唱法をマスターすると完成という段階になった。

そんな中で、奥村先生の教室を見つけたのは、とても幸運だったと言える。奥村先生は、ポップスと日本古来の民謡のスキルを習得している数少ない実力派のトレーナーである。 

前述した通り、最適なボイストレーナーが中々見つからなかった。理由は、日本の音楽シーンに、和と洋を融合したジャンルが確立していないせいだ。

自分が、「演歌ポップという新しいジャンルなんですが――」と恐るおそる切り出すと、「大丈夫です。お任せ下さい」と、奥村先生は笑顔で答えてくれた。

だが、諸事情があって音楽を続けることが困難になった。当然、ボイトレや楽曲も放ったらかしとなった。それから十年間、音楽から全く離れた生活を送った。全ては、思い出に変わりつつあった。

音楽から離れてからは、小説という分野に表現の可能性を求めるようになっていた。作風は当初のグロいホラーから、次第に、癒し系のミステリーに変わっていった。時を経るごとに、自身に何だかの心境の変化があったようだ。

ある日、この癒し系ミステリーの持つポジティブな力と、十年前に作った楽曲の世界観が非常に似ていることに気付いた――文学と音楽がリンクしていると言い換えてもいい。

箪笥の奥から引っ張り出して、当時の懐かしい音源を聞いた。鮮やかに思い出が蘇った。そして、新しいジャンルが完成する前に、泣く泣く辞めなければならなかった無念さを思い出した。

次の瞬間、「もう一度、歌をやり直すべき時かも知れない」自分は決心していた。こうして、十年ぶりに奥村先生の教室の門戸を叩いた。

先生によると、「ボイトレの方法が、前回と比べて格段に進歩している」とのことだった。正式には、 「フースラーメソード」という理論らしい。

既存の呼吸法に頼らずに、喉の筋肉を鍛えることで歌のレベルを上げるという考え方は、非常に新鮮だった。そして、「野生に戻ること」を掲げた斬新な教えは、民謡の歌唱法を習得する上でも有利だった。

それから、約三か月のトレーニングを受けて、念願だった「演歌ポップ」という新しいジャンルを完成することができた。

こうして、和と洋、文学と音楽、現在の自分と十年前の思い出が一つに繋がった。――それは、まるで「フースラーメソード」の魔法を、目の当たりにしたような体験だった。

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